中国で働くにあたって、給与や税金、社会保険の仕組みは、日本とはかなり異なる部分が多く、最初は戸惑う方も少なくありません。「額面と手取りの差が思ったより大きい」「税金はどう計算されるの?」「社会保険って何に使われるの?」といった疑問の声もよく耳にします。
本記事では、中国の給与体系を中心に、所得税や社会保険、公積金(住宅積立金)といった制度の基本をやさしく解説します。また、駐在員と現地採用者の待遇の違いや、実際によくあるトラブルとその対策についても触れていきます。これから中国で働く方、またはすでに働いているけれど給与面の仕組みがよくわからないという方にも役立つ内容となっています。
中国での給与体系の基本:月給・年収・手当の考え方
中国では基本的に「月給制」が主流であり、給与は毎月末または翌月初めに支給されます。年収ベースでの提示もありますが、日本と違い、「賞与(ボーナス)」の支給形態や有無は企業によって大きく異なります。
給与の内訳には、基本給(基本工资)に加えて、職務手当、住宅手当、交通費補助、食事手当などの各種手当が含まれることが多く、企業によっては「総支給額(税込工资)」として一括で提示されることもあります。
「手取り(実发工资)」は、そこから所得税や社会保険、公積金などを差し引いた後の金額となり、額面とのギャップが大きい場合もあるため、事前に内訳をしっかり確認することが重要です。
日本とここが違う!給与明細の読み方と注意点
中国の給与明細は企業によって形式が異なりますが、共通して以下のような項目が含まれています:
- 基本工资(基本給)
- 绩效工资(成果給)/奖金(ボーナス)
- 补贴(手当):食事、交通、住宅など
- 应发工资(支給額):各種手当を含んだ総額
- 五险一金(社会保険+公積金):個人負担分
- 个人所得税(個人所得税)
- 实发工资(手取り)
注意点として、企業によってはボーナスが「月給に含まれている」ケースもあり、日本のような年2回のまとまった賞与が支給されないこともあります。また、基本給が低く設定されている代わりに手当が多いケースでは、退職金や保険料算出の基準が不利になることもあるため要確認です。
所得税の仕組み:どれくらい引かれる?計算の実際
中国の個人所得税(个税)は、給与所得に対して段階的な累進課税方式が採用されています。2023年現在、月額5,000元の基礎控除があり、それを超えた分に対して課税されます。
課税対象額の算出方法は以下の通りです:
課税所得 = 総支給額 - 五险一金(社会保険+公積金) - 基礎控除(5,000元)
この課税所得に対して、3%~45%の7段階税率が適用されます。たとえば、月収1万元前後であれば税率は3%または10%程度にとどまりますが、高収入層では20~30%以上になる場合もあります。
外国人の場合、中国国内の所得のみを対象とすることが一般的ですが、滞在期間が長くなると世界所得に課税される場合もあるため、「183日ルール」などの滞在基準も注意が必要です。
社会保険と公積金:企業と個人の負担割合とは
中国では「五险一金」と呼ばれる5つの社会保険と1つの住宅積立金制度があります。企業と従業員の双方が支払い義務を負い、毎月の給与から自動的に天引きされます。
五险(5つの保険)
- 養老保険(年金)
- 医療保険(健康保険)
- 失業保険
- 労災保険(企業負担のみ)
- 出産保険
一金(公積金)
- 住宅積立金(将来的な住宅購入・賃貸支援用)
保険料率は地域によって異なりますが、例えば上海では企業が30%前後、個人が10%前後を負担します。このため、給与の10~20%程度が天引きされ、手取りが減少することになります。
なお、外国人が社会保険に加入するかどうかは都市や雇用形態によって異なるため、契約時に確認が必要です。外資系企業や日系企業の中には、外国人には医療保険のみ加入させるケースもあります。
駐在員と現地採用の待遇差:収入・手当・制度比較
同じ中国勤務でも、「駐在員」と「現地採用」では待遇に大きな差があります。一般的に駐在員は日本本社との雇用契約のもとで派遣され、給与の一部または全部が日本円で支給され、住宅費や子女教育費、帰国手当などが支給されることが多いです。
一方、現地採用の場合は中国の現地法人との直接契約となり、給与は人民元で支給、各種手当は限定的です。ただし、その分現地での裁量が大きく、自由度が高いという利点もあります。
近年では、「元駐在員が現地採用に切り替える」「現地採用から駐在に昇格する」といった柔軟な働き方も増えてきています。どちらにもメリット・デメリットがあるため、自分のキャリア設計に合わせた選択が重要です。
税金対策と節約術:中国で賢くお金を管理するには
中国では日本以上に「節税」や「資産管理」に関心を持つ人が多く、以下のような実用的な対策が取られています。
- 交通費・食費などの補助を非課税枠として活用
- 福利厚生の形で保険や宿泊補助を受ける
- 外貨口座の併用で為替リスクを分散
- 中国国内の資産(不動産や公積金)への分散投資
また、銀行や企業が提供する「福利厚生型年金」や「医療補助制度」など、企業独自の制度も活用することで、生活コストの圧縮や老後の備えが可能になります。
外貨送金にも制限があるため、日本への仕送りや貯金の移動にはタイミングと手続きの工夫が必要です。税理士や専門家の助言を受けることで、より安心・安全に管理ができます。
トラブル・失敗例とその対策:支給遅延・保険未加入など
中国勤務において実際に発生しうるトラブルも事前に知っておくと安心です。
トラブル例1:給与の遅延や未払い
→特に中小企業では発生しやすく、契約書に「支給日」「遅延時の対応」などを明記しておくことが重要。
トラブル例2:社会保険に加入していなかった
→外国人であることを理由に未加入となるケースも。企業側の義務を確認し、証拠として給与明細や加入証明を保管しておきましょう。
トラブル例3:退職後に公積金が引き出せない
→手続きに時間がかかるため、帰国前に準備・相談をしておくことが望ましいです。
このようなトラブルを避けるには、契約前の確認、明細の保存、企業との円滑なコミュニケーションがカギとなります。
おわりに
中国で働くにあたって、給与や税金、保険制度を理解することは、安心して生活するための土台になります。仕組みを知らないまま働き始めると、思わぬ手取りの少なさやトラブルに直面することもあります。
本記事では制度の全体像から実用的な対策まで幅広く解説しましたが、最も大切なのは「契約内容をしっかり把握すること」と「必要に応じて専門家に相談すること」です。
次回は「言葉の壁を越える:中国語学習のコツと便利フレーズ集」をテーマに、仕事と生活に役立つ語学情報をお届けします。どうぞお楽しみに!
